食べ放題物語 ~暗い海底から攫われてきた魚
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テレビやなんかで話題(だった)らしい刺身バイキングに行ってきたんだけど、俺が食べたあれはホントに刺身だったのかな。
— ブタメガネ (@Pig_MEGAne) 2014, 9月 15
ちょっとよくわからなかった。
食感や匂いは確かに刺身風だったけど。
自信ない。
脂が悪い意味で強かった。もしかして脂いれちゃいました? そんな疑いを持つほどに脂脂脂。脂好きを自認する俺も怯む。
あと色。白い。とにかく白い。白身魚って意味じゃなくて。白い。初めてみたよそんな色。
初めてと言えば他にもあって。形。お刺身の形。お刺身といったらイメージする形があると思うんですけで「たぶんそのどれにも被らないだろうなぁ」って形に切り分けられてたのも新鮮だった。
なんかね。15cmくらいの紐状のお刺身とかあるの。
そろえて切ろうって気持ちゼロ。
気の向くまま、包丁の向くまま、切りました。
山盛りにされたふぞろいなお刺身たちがそう主張していた。
ここはどこだ。
俺は誰だ。
突然の自失。
山盛りの生魚。お刺身。
清掃が行き届いているとは言い難い店内。
そこに流れる謎のラジオ番組。
説明なく15分遅れた開店時間。
開店から不機嫌さの頂点にいる店員。
その店員の口から漏れた舌打ち。
鮮度。技術。仕事。感謝。言葉。感情。対価。前払。衝突。無視。軽蔑。混雑。遠い海からきた鮪。混乱。怒声。テーブルの染み。悪態。醤油。暗い海底から攫われてきた魚。生卵。汚れた氷。命。塩分。包丁。ビニールの手袋。異国の言葉。白身。青身。赤身。相席。油とヤニで汚れた襖。プラスチックの皿。漬物。二度目の生卵? 驚愕。感嘆。衰えていることを実感。寂寥。
剥げた頭にビニールキャップを被った厨房のおじさん。
茶髪をなびかせながら思いのままに魚を切り刻む厨房のお兄ちゃん。
再びの混乱。思考。停止。咀嚼。
味噌汁の中の閉じたままのシジミ。
相席したカップルの男の子が彼女に囁く。
「何食ってるかわからないけどおいしいね」
断続的な情報で溢れ返る脳内がその言葉で収束した。
自由。
そうだ。これは「荒野の自由」だ。
洗練とは遠く、そして合理的でもない。
当然、規範や規律もないのだ。
魚があり、それを切る者があり、空腹な俺がある。
これ以上、何が必要だと言うのだろうか。
いや醤油とわさびは必要だけど。
刺身のある国に生まれ育った幸せ。白米のある国に生まれ育った幸せ。刺身と白米のある国に生まれ育った幸せ。ここに賛美。
— ブタメガネ (@Pig_MEGAne) 2014, 9月 15